IZANAGI

開発者より

なぜこのサービスを作ったのか

このサービスを作った経緯と設計の意図を、開発者の言葉でそのまま書いています。

正直に言います。私自身、最初にこの設計を考えたとき、¥980で30分か——少し高いかな、と思いました。

でも、この問題をどうすれば解決できるかを調べ、設計し、作り続けるうちに 考え方が変わっていきました。

30分にした理由

親御さんがまず現状を把握する。自分たちが学ぶ。お子さんの状況を理解する。 そして一緒に学ぶ。——このプロセスを綿密に設計した結果、必要だったのは長さではなく密度でした。

だらだらと長い動画では途中で飽きてしまいます。子どもは特にそうです。 親子で一緒に集中して取り組める時間として30分を選んだのは、 無駄をそぎ落とした結果であって、手を抜いた結果ではありません。

「長ければよい」「短ければよい」「安ければよい」「高ければよい」—— そのどれでもないと思っています。

仕組みを知ることは、責めることをやめること

子どもがゲームやSNSをやめられないとき、つい「意志が弱い」「自己管理できていない」と 思ってしまいます。でも違います。

やめられないのは、やめられないように作られているから。
人の本能——承認欲求、損失回避、ドーパミンへの反応——に訴えかける設計になっている以上、 それに引っかかること自体は人間として自然なことです。

仕組みを知ることで「本人が悪いのではない」とわかる。 怒りではなく理解で受け止められるようになる。 このサービスが本当にやりたいのは、そこです。

知っても完璧には防げない——それでも

行動経済学の創始者であるダニエル・カーネマン自身が 「自分のバイアスについて何十年研究しても、引っかかることは減らなかった」と語っています。 つまり、知識だけでは完璧には防げない。これは事実です。

ただ——「あ、今この心理に陥っているかもしれない」と一瞬立ち止まれる頻度が上がる。 それだけでも、十分に意味があると私は思っています。

その小さな気づきの積み重ねが、少しずつ習慣を変えていきます。 そして親子で「あ、これ仕掛けだね」と言い合える関係になれば—— SNS・課金との付き合い方は、自然と変わっていくはずです。

——ここまでが、サービスとしてやりたいことです。 ただ、もう一つだけ書かせてください。

その先にあるもの

このサービスを作る過程で、私自身の見え方が変わったことがあります。

信号の色がなぜあの3色なのか。階段の段差がなぜ場所によって違うのか。 狭い道になぜ車が多く通るのか。—— 日常のあらゆるものに「なぜそうなっているのか」という設計の意図か、 あるいは歴史的な偶然があることに気づくようになりました。

アプリやゲームの仕掛けも、その延長線上にあります。世界は設計されている——そう思えるようになると、 見える景色が少し変わります。

このサービスを使えば世界観が変わる、とは約束できません。 ただ、仕掛けの構造を知ることが何かのきっかけになるかもしれない。 仕掛けを見抜く側から、いつか仕掛ける側に回る人が 出てきたら面白いな、と思っています。

¥980について

最初は高いかなと思いました。 でも、もし親御さんがSNSや課金の仕組みを知り、 お子さんと一緒に乗り越えられるようになるなら—— 長い目で見て安いものだと、今は思えるようになりました。

ようこそ、Project IZANAGI の世界へ。

「イザナギ」——それは日本神話において、 抜け出せない世界から自分の意志で踏み出した神の名前です。

仕掛けの正体を知ったあなたとお子さんが、 そのループを自分たちの力で突破できるよう——祈っています。

— NamiFlow 開発者


Project IZANAGI とは

Project IZANAGI は、スマートフォン・SNS・ゲームに組み込まれた「やめられなくなる仕掛け」を 親子で一緒に学ぶ、体験型の教育プログラムです。

行動経済学や心理学の知見にもとづき、アプリやサービスが利用者の行動にどのように影響を与えるかを わかりやすく解説します。仕掛けの仕組みを理解することで、「なぜやめられないのか」を怒りではなく 知識で受け止められるようになることを目指しています。

対象は小学校高学年〜高校生(10〜18歳)のお子さんと保護者の方です。

心理的予防接種(Inoculation Theory)

本サービスは「心理的予防接種」の考え方をベースにしています。 ワクチンが弱毒化したウイルスを体内に入れて免疫を作るように、 仕掛けの正体を事前に知り、安全な環境で体験することで、 実際の場面で仕掛けに気づき、自分で判断できる力を育てます。

教育であり、治療ではありません

本サービスはあくまで「仕掛けの仕組みを教える教育コンテンツ」です。 依存症の治療、診断、カウンセリングを提供するものではありません。 お子さまの状況について深刻な懸念がある場合は、専門の医療機関やカウンセラーにご相談ください。


理論的根拠と参考文献

本サービスで扱う主要理論をご紹介します。

行動経済学

プロスペクト理論(Kahneman & Tversky, 1979)

損失回避やFOMO(取り残される恐怖)の理論的基盤となる理論です。 人は利得よりも損失に強く反応するという知見は、 期間限定セールや「残りわずか」表示の背景にあります。

参考:ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』(早川書房)

ナッジ理論(Thaler & Sunstein, 2008)

選択アーキテクチャやデフォルト設定が人の行動に与える影響を体系化した理論です。 アプリの初期設定や通知のオン/オフがどのように設計されているかを理解する基盤となります。

参考:リチャード・セイラー『実践 行動経済学』(日経BP)

心理学

オペラント条件付け(B.F. Skinner, 1938)

変動報酬スケジュールとドーパミンループの理論です。 SNSフィードのランダムな報酬や、ガチャの設計原理の背景にあります。

社会的証明(Robert Cialdini, 2001)

「みんなやってる」という心理メカニズムを解明した理論です。 レビュー数の表示や「○○人が購入」といった表示の影響力を理解するために重要です。

参考:ロバート・チャルディーニ『影響力の武器』(誠信書房)

心理的予防接種理論(William McGuire, 1961)

本サービスの教育アプローチの基盤となる理論です。 説得への抵抗力を事前に構築することで、 実際の場面で仕掛けに対処できる力を育てます。

デジタルウェルビーイング

説得的デザイン(Persuasive Design)

テクノロジーが人間の行動をどのように誘導するかを研究する分野です。 アプリやWebサービスのUI設計に組み込まれた説得の仕組みを理解するための枠組みを提供します。

参考:トリスタン・ハリス(Center for Humane Technology)

ダークパターン(Harry Brignull, 2010)

ユーザーを意図的に誤誘導するUI設計パターンの総称です。 退会しにくい導線や、意図しない同意を取り付ける仕組みなどが含まれます。

参考:仲野佑希『ザ・ダークパターン』(翔泳社)